用地仕入れ・立地選定|勝てる土地の条件と調査ポイント(アパートメント開発)
アパートメント開発において、用地選定は事業の成否を8割方決定づけると言われます。建物の設計や設備は後から調整できますが、土地の立地条件、法規制、物理的特性は変更できません。そのため、用地選定の段階で見落としがあると、「想定していた戸数が入らない」「造成費が予算を超える」「賃貸需要が弱く空室が続く」といった問題が発生し、事業全体が立ち行かなくなります。
用地選定の失敗が高コストになる理由は、後戻りが困難だからです。契約後に法規制の問題が判明しても、既に手付金を支払っていれば損失が確定します。建築確認申請の段階で戸数が減ることが分かっても、収支計画を根本から見直す必要があります。完成後に賃貸需要が想定より弱いことが判明しても、立地そのものを変えることはできません。
本記事では、用地仕入れ・立地選定の全体プロセスを体系化し、候補地の情報収集から契約前のデューデリジェンスまで、どのような順序で何を確認すべきかを解説します。また、需要・法規・物理条件・収支という4つの判断軸を設定し、それぞれの評価方法とよくある失敗パターンを具体的に提示します。
この記事で分かること:
用地選定の判断軸、調査の進め方、チェックリスト、よくある失敗パターン、契約前に最低限やるべきことを包括的に理解できます。
用地選定は需要 × 法規 × 物理条件 × 収支の掛け算
用地選定は、単一の要素だけで判断できるものではありません。たとえば、「賃貸需要が強い立地」であっても、法規制で想定する建物が建てられなければ意味がありません。「法規的に問題なく建てられる土地」であっても、高低差や擁壁の問題で造成費が膨らみ、収支が成立しなければ事業化できません。「需要も法規も問題ない土地」であっても、競合物件の供給過多で賃料が想定より低くなれば、利回りが計画を下回ります。
用地選定は、需要 × 法規 × 物理条件 × 収支という4つの要素の掛け算で評価する必要があります。どれか1つでもゼロ(致命的な問題)があれば、全体がゼロになります。逆に、すべてが及第点以上であれば、事業化の可能性が高まります。
以下、4要素をそれぞれ定義します。
需要: 対象地において、想定する間取り・家賃帯の賃貸需要が十分にあるか。ターゲット層(単身・DINKS・ファミリーなど)の人口動態、競合物件の供給状況、家賃相場の水準と成約スピードを確認します。需要が弱い立地では、空室率が高くなり、想定賃料を下げざるを得なくなります。
法規: 建築基準法、都市計画法、条例などの法規制上、想定する建物が建築可能か。用途地域、建ぺい率・容積率、接道条件、防火地域、地区計画、景観条例などが該当します。法規的に建てられない、または想定戸数が大幅に削られる場合、事業性が成立しません。
物理条件: 土地の形状、高低差、擁壁、地盤、インフラ(上下水道・ガス・電力)の状況が、建築計画に与える影響。高低差がある土地では造成費が発生し、不整形地では建物配置が制約されます。インフラが未整備の場合、引き込み工事費と工期が増加します。
収支: 想定賃料、建築費、造成費、運営費、融資条件などを前提とした事業収支が成立するか。標準ケースだけでなく、保守ケース(賃料が5%下がる、工事費が10%増えるなど)でも利回りが目標を満たすかを確認します。収支が成立しなければ、そもそも事業化できません。
以下の図表は、4要素の評価マトリクスを示したものです。
【図表1】4要素の評価マトリクス
| 要素 | 強い/良好 | 普通 | 弱い/困難 |
|---|---|---|---|
| 需要 | ターゲット層の人口増加、競合少、相場が安定 | ターゲット層横ばい、競合あり、相場に変動 | ターゲット層減少、競合過多、相場下落 |
| 法規 | 用途地域・接道OK、追加規制なし | 地区計画あり、セットバック必要 | 接道不足、建築不可、戸数大幅減 |
| 物理条件 | 平坦・整形地、インフラ完備 | 軽微な高低差、インフラ引き込み必要 | 大きな高低差、擁壁やり替え、浄化槽 |
| 収支 | 標準・保守とも目標利回り達成 | 標準ケースで達成、保守で若干不足 | 標準ケースでも目標未達 |
この4要素がすべて「強い/良好」または「普通」であれば、GO判断の可能性が高まります。いずれかが「弱い/困難」である場合、その問題を解決できるか(価格交渉、設計変更など)、または許容できるか(リスク込みで進める)を検討します。
用地選定の全体フロー(買付前〜契約前DD)
用地選定は、以下の7つのステップで進めます。各ステップでアウトプット(判断材料)を作成し、次のステップに進むか、見送るかを判断します。
STEP0:候補地情報の収集
対象地の基本情報を収集します。住所(地番まで)、地目、面積、公図、測量図(あれば)、登記事項証明書、前面道路の種別(公道/私道)、上下水道・ガス・電力の引き込み状況、現況(更地/建物あり)、売主の情報、提示価格などです。これらの情報が揃っていない場合、仲介業者や売主に依頼します。
STEP1:需要仮説の構築
対象地の立地条件(駅距離、周辺環境、人口動態)から、「誰が借りるか」を仮説として設定します。単身者向けワンルーム・1Kか、DINKS向け1LDKか、ファミリー向け2LDK・3LDKか、といった間取りの方向性を決めます。ターゲット層の人口動態、競合物件の供給状況、家賃相場のレンジを確認し、需要の強さを評価します。
STEP2:法規の当たり付け
役所の都市計画課・建築指導課で、用途地域、建ぺい率・容積率、防火地域、地区計画、景観条例などを確認します。また、接道条件(建築基準法上の道路か、幅員、接道長)を確認し、「そもそも建てられるか」を一次判断します。この段階で致命的な問題(建築不可、戸数が大幅に削られるなど)があれば、見送りを検討します。
STEP3:簡易ボリュームの検討
建築士に依頼し、法規制限と敷地条件を前提に、何戸・何平米の建物が配置可能かを図面で示してもらいます。この段階で、想定していた戸数が確保できるか、駐車場が配置できるか、採光・通風が確保できるかを確認します。ボリュームが想定を下回る場合、収支への影響を評価します。
STEP4:概算収支の作成
簡易ボリュームで得られた戸数・面積を前提に、想定賃料、建築費、造成費、運営費、融資条件を仮置きして、概算収支を作成します。標準ケースと保守ケース(賃料-5%、工事費+10%など)の両方で利回りを計算し、目標を満たすかを確認します。収支が成立しない場合、価格交渉または見送りを検討します。
STEP5:リスク洗い出し
土地の物理条件(高低差、擁壁、地盤)、インフラ状況(上下水道の口径・位置、雨水放流先)、近隣条件(日影規制、騒音、近隣住民の反応)などから、追加コスト・工期延長のリスクを洗い出します。必要に応じて、地盤調査、造成業者への見積もり依頼、インフラ事業者への照会を行います。
STEP6:契約前デューデリジェンス(DD)
契約前に、最終確認を行います。境界の確定状況、越境物の有無、測量図の有無、上下水道・ガス・電力の引き込み工事の詳細、近隣との過去のトラブル履歴などを確認します。この段階で、売買契約書の特約条項(建築確認取得を停止条件とするなど)を検討します。
STEP7:GO/NO-GO判断と条件交渉
STEP0〜6の結果を総合的に評価し、GO(買付・契約)またはNO-GO(見送り)を判断します。GOの場合でも、価格交渉(リスクを踏まえた減額)、契約条件の調整(特約の追加、決済スケジュールの調整)、追加調査の実施(地盤調査、詳細測量など)を検討します。
以下の図表は、用地選定の全体フローを視覚化したものです。
【図表2】用地選定フロー図
候補地発見
↓
STEP0:候補地情報の収集
(アウトプット:住所、地番、面積、道路、インフラ状況、価格)
↓
STEP1:需要仮説の構築
(アウトプット:ターゲット層、想定間取り、需要の強さ評価)
↓
STEP2:法規の当たり付け
(アウトプット:用途地域、建ぺい率・容積率、接道条件、建築可否)
↓
STEP3:簡易ボリュームの検討
(アウトプット:配置図、想定戸数・面積、駐車場配置)
↓
STEP4:概算収支の作成
(アウトプット:標準/保守ケースの利回り、資金計画)
↓
STEP5:リスク洗い出し
(アウトプット:追加コスト・工期延長の可能性、対策案)
↓
STEP6:契約前DD
(アウトプット:境界確定、インフラ詳細、近隣状況、契約特約案)
↓
STEP7:GO/NO-GO判断と条件交渉
(アウトプット:最終判断、価格交渉、契約条件)
↓
GO → 売買契約締結
NO-GO → 見送り、または条件変更後に再検討
このフローに沿って進めることで、見落としを防ぎ、効率的に用地選定を進めることができます。
判断軸1)需要:賃貸需要の"読み違い"を防ぐ
用地選定において、最も重要な判断軸の1つが「賃貸需要」です。どれだけ法規的に問題がなく、建築費が抑えられても、入居者が集まらなければ事業は成立しません。
賃貸需要を評価する際、人口増減だけを見るのは不十分です。市全体の人口が増加していても、ターゲットとなる世帯層(単身・ファミリーなど)が減少していれば、開発物件の需要は弱くなります。また、人口が増加していても、競合物件の供給が過剰であれば、空室率が高くなり、賃料相場が下落します。
需要を正確に評価するためには、以下の要素を確認します。
人口動態: 対象地の市区町村および町丁目レベルでの人口・世帯数の増減、年齢階級別人口、転入転出の動向を確認します。ターゲット層(20代単身、30〜40代ファミリーなど)の人口が増加傾向にあるか、横ばいか、減少傾向にあるかを把握します。
競合物件: 同じ駅距離、間取り、築年数、設備水準の競合物件がどれだけ存在するかを確認します。競合物件の募集状況(空室率、募集期間、家賃改定履歴)を分析し、供給過多のサインがないかをチェックします。
家賃相場: 対象地周辺の募集家賃をレンジ(上位/中央値/下位)で把握します。ただし、募集家賃がそのまま成約するとは限らないため、フリーレントや広告料などの「見えにくい値引き」を考慮し、保守的に想定賃料を設定します。
駅距離・生活利便: 駅からの距離だけでなく、スーパー、病院、学校、コンビニなど、日常生活に必要な施設へのアクセスを確認します。単身者向けとファミリー向けでは重視する施設が異なるため、ターゲット層に応じた評価が必要です。
需要の詳細な調査方法については、以下の記事で体系的に解説しています。
人口動態の見方、競合物件の分析手順、家賃相場の推定方法など、実務で再現できる形で解説しています。
判断軸2)法規:建てられるか/どれだけ建つか
用地選定の第2の判断軸は「法規」です。どれだけ需要が強い立地でも、法規制で建物が建てられなければ意味がありません。また、建てられたとしても、想定していた戸数・面積が確保できなければ、収支計画が崩れます。
法規の確認は、用途地域・建ぺい率・容積率の確認が入口ですが、それだけでは不十分です。以下のような追加の規制が、建物のボリュームを削る要因となります。
用途地域: 共同住宅が建築可能な用途地域(第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域など)であるかを確認します。工業専用地域では共同住宅は建築できません。
建ぺい率・容積率: 敷地面積に対して、どれだけの建築面積・延べ床面積が確保できるかを計算します。角地緩和、防火地域緩和などの特例も考慮します。
接道条件: 建築基準法上の道路に2m以上接道しているかを確認します。道路の幅員が4m未満の場合、セットバックが必要となり、実質的な敷地面積が減少します。
防火・準防火地域: 防火地域では耐火構造、準防火地域では準耐火構造が求められることがあり、建築費が増加します。
斜線制限・日影規制: 北側斜線、道路斜線、隣地斜線、日影規制によって、建物の高さや形状が制約されます。特に北側斜線は、敷地北側の建物高さを大きく制限します。
地区計画・景観条例: 高さ制限、壁面後退、色彩・デザインの制限が追加されることがあります。地区計画がある場合、用途地域の制限以上に厳しい条件が課されることがあります。
法規の確認は、役所の都市計画課・建築指導課で行います。ただし、最終的な建築可能性の判断は、建築士や行政の建築確認審査で行われるため、契約前に建築士に簡易ボリューム検討を依頼し、「想定する建物が配置可能か」を確認することが重要です。
判断軸3)物理条件:高低差・形状・インフラがコストと工期を決める
用地選定の第3の判断軸は「物理条件」です。土地の高低差、擁壁、形状、地盤、インフラの状況によって、追加の工事費や工期が発生します。これらの物理条件は、法規や需要が問題なくても、収支を大きく圧迫する要因となります。
高低差・擁壁: 敷地内または敷地と道路の間に高低差がある場合、造成工事が必要になります。既存擁壁が老朽化している場合、擁壁のやり替えが求められることがあり、数百万円〜数千万円の追加費用が発生します。高低差が2m以上ある場合、専門家による造成費用の見積もりを取ることが必須です。
形状(間口・奥行・不整形): 間口が狭い土地、旗竿地(路地状敷地)、三角形や台形などの不整形地では、建物の配置が制約され、専有面積が減少します。駐車場の配置が困難になり、ファミリー向け物件として競争力が低下することもあります。
地盤: 切土・盛土の境界がある土地、軟弱地盤の土地では、地盤改良が必要になることがあります。地盤調査(ボーリング調査)を実施し、地盤改良の要否と費用を確認します。
インフラ(上下水道・ガス・電力): 上水道の口径が小さい場合、引き込み工事や負担金が発生します。下水道が未整備の場合、浄化槽の設置が必要となり、設置費用とランニングコストが追加されます。雨水の放流先がない場合、浸透桝の設置や近隣との調整が必要になります。ガスが都市ガスではなくプロパンガスの場合、入居者の光熱費が高くなり、競争力が低下します。
物理条件の詳細な確認方法とチェック項目については、以下の記事で解説しています。
関連記事:
土地のチェックリスト:用途地域・接道・高低差・形状・インフラの見落とし
現地確認の方法、役所での照会項目、よくある見落としポイントなどを具体的に提示しています。
判断軸4)収支:概算の作り方(標準/保守の2本立て)
用地選定の第4の判断軸は「収支」です。需要・法規・物理条件がすべて問題なくても、最終的に収支が成立しなければ事業化できません。
収支を評価する際、楽観的な前提だけで計算するのは危険です。想定賃料が計画通りに決まらない、建築費が見積もりより高くなる、空室率が想定より高くなる、といったリスクを織り込んだ「保守ケース」でも利回りが目標を満たすかを確認する必要があります。
想定賃料の設定: 募集家賃の中央値を標準ケースとし、そこから5%〜10%低い水準を保守ケースとします。フリーレント(1ヶ月分の賃料無料)を考慮し、年間ベースでの実質賃料収入を計算します。
空室率の設定: 標準ケースでは稼働率95%(空室率5%)、保守ケースでは稼働率90%(空室率10%)程度を見込みます。新築時は満室でも、築年数が経過すれば空室が発生するため、長期的な視点で空室率を設定します。
運営費の計上: 管理費、修繕費、固定資産税、火災保険料、PM費用(プロパティマネジメント費用)など、運営に必要な費用を計上します。一般的に、年間賃料収入の15%〜20%程度が運営費として発生します。
NOI(Net Operating Income)の計算: 年間賃料収入から空室損失と運営費を差し引いた純収益(NOI)を計算します。NOIを総投資額で割ることで、NOI利回りを算出します。
建築費・造成費の見積もり: 建築費は、構造(木造/軽量鉄骨/RC造)、設備水準、地域によって変動します。坪単価の相場を参考にしつつ、複数の建築会社から見積もりを取ります。造成費、地盤改良費、インフラ引き込み費用も忘れずに計上します。
予備費の計上: 見積もり段階で想定できない追加費用に備え、建築費の5%〜10%程度を予備費として計上します。この予備費がないと、追加費用が発生した時点で資金が不足し、プロジェクトが頓挫するリスクがあります。
金利と返済期間: 融資を利用する場合、金利と返済期間を前提に、年間の返済額(元金+利息)を計算します。金利が上昇した場合のシミュレーションも行い、返済負担が耐えられる範囲かを確認します。
収支計算の詳細は、事業収支・資金計画の専門的な領域であり、税理士やファイナンシャルプランナーの助言を得ることが推奨されます。本記事では、用地選定の段階で「概算収支が成立するか」を一次判断する方法を提示しています。
よくある失敗パターン(5つの典型例)
用地選定において、以下のような失敗パターンが繰り返し発生しています。これらの失敗は、契約前の確認不足が原因であり、事前にチェックすることで回避可能です。
失敗パターン1:需要は強いが法規で戸数が出ない
駅徒歩5分の好立地で、賃貸需要が強いエリアでした。しかし、地区計画で高さ制限と壁面後退が課されており、想定していた8戸のうち、実際には5戸しか配置できませんでした。戸数が減少したことで、1戸あたりの土地取得費が増加し、利回りが目標を大きく下回りました。契約前に地区計画の詳細を確認し、簡易ボリューム検討を行っていれば、この問題は回避できました。
失敗パターン2:接道/セットバックで敷地が削られ収支が崩れる
前面道路が幅員3.5mであり、セットバック(道路中心線から2m後退)が必要でした。セットバックにより、敷地面積が約15%減少し、想定していた容積率が確保できなくなりました。結果として、1戸あたりの専有面積が小さくなり、賃料収入が減少しました。道路台帳を確認し、セットバックの影響を事前に計算していれば、価格交渉または見送りの判断ができました。
失敗パターン3:インフラ(下水・雨水)で工事と申請が伸びる
下水道が敷地前まで整備されていると思い込んでいましたが、実際には約50m離れた本管まで引き込み工事が必要でした。下水道課との協議、近隣の通行許可、掘削工事に約6ヶ月を要し、着工が大幅に遅れました。また、引き込み工事費用として約500万円が追加で発生し、収支が圧迫されました。契約前に下水道課で本管の位置を確認していれば、この遅延と追加費用を見込むことができました。
失敗パターン4:競合供給を見落として賃料が想定より下がる
市全体の人口が増加しており、賃貸需要は強いと判断していました。しかし、対象地の周辺では、同時期に複数の新築アパートが供給され、競合が激化しました。想定していた賃料7.0万円に対し、実際には6.5万円まで下げなければ入居が決まらず、利回りが計画を下回りました。競合物件の供給動向を詳細に調査し、供給過多のサインを見逃さなければ、この問題は回避できました。
失敗パターン5:造成/地盤で追加工事費が発生
敷地に高低差があることは認識していましたが、既存擁壁の状態を詳しく確認していませんでした。建築確認申請の段階で、行政から「擁壁のやり替え」を求められ、約800万円の追加費用が発生しました。さらに、地盤調査の結果、軟弱地盤であることが判明し、地盤改良費として約300万円が追加されました。合計1,100万円の追加費用により、収支が大幅に悪化しました。契約前に擁壁の状態を専門家に確認し、地盤調査を実施していれば、これらの費用を見込むことができました。
これらの失敗パターンに共通するのは、「契約前の確認不足」です。法規・現地・インフラ・競合のいずれかを見落とすことで、数百万円〜数千万円規模の損失や、数ヶ月の遅延が発生しています。
契約前にやるべきDD(最低限チェック)
土地の売買契約を締結する前に、以下のデューデリジェンス(DD)を実施することを強く推奨します。これらの確認を怠ると、契約後に「こんなはずではなかった」という事態に陥ります。
役所での確認項目
建築指導課または都市計画課で、用途地域、建ぺい率・容積率、防火地域、地区計画、景観条例、高度地区、日影規制の有無を確認します。道路管理課で、前面道路の種別(建築基準法上の道路か)、幅員、セットバックの要否、道路の管理者(公道/私道)を確認します。下水道課で、公共下水道の整備状況、本管の位置、引き込みの要否、受益者負担金を確認します。水道局で、上水道の本管口径、引き込みの有無、負担金を確認します。宅地造成規制区域、土砂災害警戒区域、浸水想定区域、液状化リスクなどの指定があるかを確認します。
役所で聞くべき質問リスト(10項目):
- この土地の用途地域、建ぺい率、容積率を教えてください。
- 防火地域または準防火地域の指定はありますか。
- 地区計画、景観条例、高度地区の指定はありますか。
- 前面道路は建築基準法上のどの道路に該当しますか(42条1項、2項など)。
- 道路の幅員と、セットバックの要否を教えてください。
- 公共下水道は整備されていますか。本管の位置を教えてください。
- 上水道の本管口径と、引き込みの状況を教えてください。
- 宅地造成規制区域、土砂災害警戒区域に指定されていますか。
- 浸水想定区域、液状化リスクはありますか。
- この土地にアパートを建てる場合、他に注意すべき規制はありますか。
境界・測量・越境の確認
確定測量図があるか、境界標が設置されているか、境界確認書(隣地所有者との合意書)があるかを売主に確認します。越境物(隣地の塀、樹木、屋根、エアコン室外機など)がないか、現地で目視確認します。越境物がある場合、撤去または覚書の締結が必要です。測量図がない場合、または境界が未確定の場合、土地家屋調査士に測量・境界確定を依頼します。費用は数十万円〜数百万円程度ですが、境界が未確定のまま契約すると、後々のトラブルにつながります。
インフラ照会(各供給事業者への確認)
水道局に、敷地前の本管口径、引き込みの要否、負担金の見込みを確認します。下水道課に、公共下水道の本管位置、接続可能性、受益者負担金を確認します。下水道未整備の場合、浄化槽の設置が必要か、排水先が確保できるかを確認します。ガス会社に、都市ガスの供給可否、引き込み費用を確認します。電力会社に、引き込み可否、工事費用、供給容量を確認します。
地盤・造成の当たり
高低差がある土地、擁壁がある土地、切土・盛土の境界がある土地では、地盤調査(ボーリング調査)を実施し、地盤改良の要否と費用を確認します。造成が必要な場合、造成業者に見積もりを依頼します。擁壁のやり替えが必要な場合、擁壁の設計・施工費用も確認します。
近隣・アクセス・現地確認
現地を昼夜・平日休日の両方で確認します。人通り、街灯の有無、騒音・悪臭、周辺建物の管理状態、ゴミ捨て場の状況などをチェックします。近隣住民に挨拶し、過去のトラブル(境界争い、騒音問題など)がないかをヒアリングします。駅から実際に歩き、体感的な距離、坂道の有無、歩道の整備状況を確認します。
仲介業者に聞くべき質問リスト
- 売主がこの土地を売却する理由は何ですか。
- 過去にこの土地で建築計画があった場合、なぜ実現しなかったのですか。
- 境界確定はされていますか。測量図、境界確認書はありますか。
- 越境物はありますか。ある場合、撤去の見込みはありますか。
- 私道持分、地役権、その他の権利関係はありますか。
- 近隣とのトラブル履歴(境界争い、騒音問題など)はありますか。
- 上下水道、ガス、電力の引き込み状況を教えてください。
- 地盤調査、造成履歴はありますか。
- この土地で建築確認が下りる見込みについて、どう考えていますか。
- 価格交渉の余地はありますか。また、契約条件(手付金、決済時期、特約など)について相談できますか。
これらの確認を怠ると、契約後に数百万円〜数千万円規模の追加費用や、数ヶ月の遅延が発生するリスクがあります。契約前のDDは、コストではなく「リスク回避のための投資」と考えるべきです。
本記事で解説した用地選定のフローとチェックリストを活用し、以下のアクションを実施してください。
候補地がある方
本記事のSTEP0〜7に沿って、一次判断を行ってください。不足している情報(法規、インフラ、簡易ボリュームなど)があれば、役所・建築士・供給事業者に確認を依頼します。概算収支を標準/保守の2本立てで作成し、事業性が成立するかを評価します。リスクが大きい場合、価格交渉または見送りの判断を検討します。
まだ候補地がない方
用地選定の条件を明確にします。ターゲット層(単身/DINKS/ファミリー)、想定間取り、駅距離の範囲、土地面積の範囲、予算(土地取得費+建築費+諸費用)を設定します。これらの条件を不動産仲介業者に伝え、候補地の紹介を依頼します。候補地が出てきたら、本記事のフローに沿って評価を進めます。
専門家に相談する場合
相談時に準備すると早い資料は、候補地の情報(住所、地番、面積、価格、公図、測量図、登記事項証明書)、希望条件(ターゲット層、想定間取り、想定戸数、予算)、自己資金の規模、融資の可能性(金融機関との関係、過去の借入実績など)です。
用地選定は、アパートメント開発の成否を決める最も重要なプロセスです。本記事で提示したフローとチェックリストを活用し、見落としのない判断を実施してください。
ご相談をご希望の方へ
RIELでは、アパートメント開発における用地選定から設計・施工・運営までをトータルでサポートしています。候補地の評価、法規確認、簡易ボリューム検討、事業収支シミュレーションなど、用地選定の各段階でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
免責事項
本記事で紹介した用地選定の手順、法規制、調査方法は、一般的な情報に基づくものです。建築基準法、都市計画法、条例などは自治体ごとに異なり、個別の土地条件によって適用される規制も変わります。融資条件、税務、市場環境なども、時期や個別状況によって変動します。
最終的な用地選定の判断は、建築士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、税理士、弁護士など、有資格者および公的機関への確認が必要です。本記事の情報に基づいて行った判断について、当社は一切の責任を負いかねます。土地の取得や開発を検討される際は、必ず専門家にご相談ください。
【図表3】契約前DDチェック表(コピペ可)
以下は、契約前デューデリジェンスに使用できるチェック表のテンプレートです。Excel・スプレッドシートにコピーして、候補地ごとに記録してください。
| DD項目 | 確認先・確認資料 | 確認済 | 結果・メモ |
|---|---|---|---|
| 法規確認 | |||
| 用途地域・建ぺい率・容積率 | 役所(都市計画課) | □ | |
| 防火・準防火地域 | 役所 | □ | |
| 地区計画・景観条例 | 役所 | □ | |
| 前面道路の種別・幅員 | 役所(道路管理課) | □ | |
| セットバックの要否 | 役所、建築士 | □ | |
| 境界・測量 | |||
| 確定測量図の有無 | 売主、仲介 | □ | |
| 境界標の設置状況 | 現地確認 | □ | |
| 境界確認書の有無 | 売主、仲介 | □ | |
| 越境物の有無 | 現地確認 | □ | |
| インフラ | |||
| 上水道(口径・引き込み) | 水道局 | □ | |
| 下水道(本管位置・接続) | 下水道課 | □ | |
| 雨水排水(放流先) | 下水道課、現地 | □ | |
| ガス(都市ガス/プロパン) | ガス会社 | □ | |
| 電力(引き込み・容量) | 電力会社 | □ | |
| 地盤・造成 | |||
| 地盤調査の要否・実施 | 建築士、地盤調査会社 | □ | |
| 造成工事の要否・見積もり | 造成業者 | □ | |
| 擁壁の状態・やり替えの要否 | 専門家(構造設計士等) | □ | |
| 近隣・現地 | |||
| 現地確認(昼夜・平日休日) | 現地 | □ | |
| 近隣トラブル履歴 | 仲介、近隣ヒアリング | □ | |
| 騒音・悪臭・治安の確認 | 現地 | □ | |
| 権利関係 | |||
| 登記事項証明書の確認 | 法務局 | □ | |
| 私道持分・地役権の確認 | 登記、売主 | □ | |
| 抵当権・差押の有無 | 登記 | □ |
このチェック表を埋めることで、契約前DDの漏れを防ぎ、リスクを可視化できます。



